日本製鉄のUSスチール買収計画に対し、アメリカの鉄鋼大手、クリーブランド・クリフス社のCEOが「日本は中国より悪」という言葉で強く非難した件について、日本国内では批判が殺到しています。
この記事では、クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOの経歴や、「日本は悪」発言の背景についてご紹介します。
クリーブランド・クリフスCEO「日本は悪」と日本製鉄のUSスチール買収計画を批判
「日本は1945年以来学んでいない」 USスチール買収意欲の米企業CEO、猛批判展開https://t.co/S5mn9fOeit
— 産経ニュース (@Sankei_news) January 14, 2025
ゴンカルベス氏は「中国は悪い。中国は邪悪だ。中国は恐ろしい」と述べつつ、「しかし日本はもっと悪い。日本は中国に対してダンピング(不当廉売)や過剰生産の手法を教えた」と言及した。
日本製鉄によるUSスチールの買収計画を、バイデン大統領が阻止したことが話題になっていますが、今度はアメリカの鉄鋼大手クリーブランド・クリフス社が同国の電炉大手ニューコア社と手を組んでUSスチールの買収に動いているとCNBCが報じました。
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この報道を受けて記者会見を行ったクリーブランド・クリフスCEOのローレンコ・ゴンカルベス氏は、日本を強い言葉で批判しました。
クリーブランド・クリフス ローレンコ・ゴンカルベスCEO
「中国は悪だ。中国は恐ろしい。しかし日本はもっと悪い。日本は中国に対してダンピング(=不当廉売)や過剰生産の方法を教えた」クリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOは記者会見でこのように主張したうえで、太平洋戦争での日本の敗戦を念頭に次のように述べました。
クリーブランド・クリフス ローレンコ・ゴンカルベスCEO
https://news.yahoo.co.jp/articles/b1f8b132ba676a9c0ba6e7192955d781b121f586
「日本よ、気をつけろ。あなたたちは自分が何者か理解していない。1945年から何も学んでいない。我々の血を吸うのはやめろ。我々はアメリカ人だ。我々はアメリカ人を愛し、アメリカを愛している」
アメリカの同盟国である日本に対する悪意ある発言に対し、アメリカのニュースサイト「アクシオス」は「反日的な言葉に満ちた記者会見」だと伝えています。
日本国内でも批判は殺到しており、Yahooニュースではこのニュースへのコメント数がランキング1位になっています。
では、「日本は中国よりも悪」と批判した、ローレンコ・ゴンカルベスCEOとはどのような人物なのでしょうか?
クリーブランド・クリフスのローレンコ・ゴンカルベスCEOとはどんな人物?
アメリカの鉄鋼大手、クリーブランド・クリフスのCEO、ローレンコ・ゴンカルベス氏はブラジルの貧しい家庭でで生まれ育ち、アメリカに渡ってビジネスで成功を収めたアメリカ人です。
ゴンカルベス氏のプロフィールや来歴(経歴)は以下のとおりです。
ローレンコ・ゴンカルベスCEOのwiki風プロフィール
ローレンコ・ゴンカルベスのプロフィール
名前 | ローレンコ・ゴンカルベス |
生誕年 | 1958年 |
出身地 | ブラジル・リオデジャネイロ |
母/父 | イヴァニー・ゴンカルベス ベルナルディーノ・ゴンカルベス |
兄弟 | セルジオ・ゴンカルベス(2歳年下の弟) |
妻 | ロザンジェラ |
子 | 娘1人(前妻との子) |
ローレンコ・ゴンカルベスCEOの来歴(経歴)
以下はローレンコ・ゴンカルベスCEOの来歴(経歴)です。
内容は、2018年10月31日公開のMESABI TRIBUNEのインタビュー記事を参考にしています。
<ローレンコ・ゴンカルベスの経歴>
- 1958年に母イヴァニー・ゴンカルベスと父ベルナルディーノ・ゴンカルベスの元に生まれる
- 母親に女手一つで2歳年下の弟セルジオとともに育てられる
- 9歳から独学で化学を学び始める
- 全額奨学金で大学に入学
- 大学で冶金工学を学びながら、高校の化学教師として働き生活費と弟の大学の学費を工面
- ブラジルの国営製鉄会社Companhia Siderúrgica Nacional(CSN)の研究開発部門に就職
- CNSに派遣され、ブリティッシュコロンビア大学で学ぶ
- 同大学院進学を目指していたが、CNSが海外派遣の停止を決定。その後、ブラジルのミナスジェライス連坊大学に派遣され学位を取得
- CNSに戻ると順調に出世。30代前半の頃、同社の民営化決定に伴い、そのプロセスを率いる4人のチームの1人に選ばれる
- CNS民営化後は会社を世界65カ国に展開するまでに成長させる
- 1996年10月に搭乗予定だったブラジルTAM航空の小型ジェット旅客機フォッカー100が墜落。直前に搭乗をキャンセルし事故を免れる
- 40歳でカリフォルニア・スチール・インダストリーズ・メタルズUSAに社長兼最高経営責任者に
- 55歳で退任。一度引退するも、カサブランカ・キャピタル社がクリーブランド・クリフス社の買収計画をニュースで知り、クリフス社に150万ドルの私財を投資するなどして敵対的買収に勝利
- 2014年にクリーブランド・クリフスのCEOに就任する
ゴンカルベスCEOの「日本は悪」発言はアジア差別?背景にある考え方とは?
ブラジルの貧しい家庭で育ちながら勉学に励み、アメリカの経営危機に瀕していた鉄鋼大手を救ったゴンカルベス氏。
経営者として類まれな才能をもった同氏が、「日本は中国よりも悪」というような世間から批判される発言をしたのはなぜでしょうか?
その理由のひとつとして考えられるのが、アジア、とりわけ日本に対する差別意識です。
ゴンカルベス氏は太平洋戦争を持ち出して日本を批判しています。
ゴンカルベス氏に限らず、欧米には先の大戦で敵国であった日本を未だに危険視する人も少なからず存在します。
加えて、ゴンカルベス氏はアメリカ人ではあるもののブラジル育ちです。日米にとって太平洋戦争の話題がどれほどセンシティブなものかという実感が薄かった可能性もあります。
そして、もう一つの理由は、生まれ育ったブラジルが抱えていた社会問題にあると考えられます。
「製造業は中流階級の基盤です。中流階級は米国の基盤です。ブラジルでは中流階級が崩壊しています。私たちは米国で中流階級を再建しています。」
https://www.mesabitribune.com/mine/lourenco-goncalves-sees-a-life-beyond-steel/article_b39d464c-dbab-11e8-b6a6-b35d9a80341b.html
これは、2018年のゴンカルベス氏のインタビューでの発言です。
彼がCNSの社員として青年期を過ごしていた頃のブラジルは、政府が汚職にまみれ、社会経済も衰退していました。
CNSの民営化により、ブラジル国内の製造業の発展に尽力していた際には、政府から恩恵を受けていた人々から自身や家族の生活を脅かすような盗聴などの妨害行為があったといいます。
そのような経験をしてきた同氏は、アメリカの製造業について次のように語っています。
「20年前の当時は、米国を本来あるべき姿に戻すために自分が重要な役割を果たすことになるとは思ってもいませんでした。米国で製造業が衰退するのを許すのは、この国では絶対にしてはいけない過ちです。だからこそ、私はクリーブランド・クリフスを米国に呼び戻すことに真剣に取り組んでいます。クリーブランド・クリフスは、米国における製造業の推進役です。偶然ではありません」
https://www.mesabitribune.com/mine/lourenco-goncalves-sees-a-life-beyond-steel/article_b39d464c-dbab-11e8-b6a6-b35d9a80341b.html
強いアメリカを取り戻すためには製造業の衰退は許されない、と考えるゴンカルベス氏としては、アメリカの製造業を支えるUSスチールが、外資(日本製鉄)に買収され、他国の支配下に置かれることは容認できるものではないと思われます。
「日本は悪」という発言は、相手が日本の企業だからというよりも、自国アメリカの経済を脅かす外国に対して危機をおぼえ、思いつく限りの強い言葉で相手を牽制した、というところかもしれません。
ちなみに、クリーブランド・クリフスのUSスチール買収計画が報じられた後、USスチールとクリフス社、ニューコア社の株価はそれぞれ値上がりしています。
クリフス社が提示するUSスチール買収提案額は、日本製鉄よりも低いと言われていますが、それでも自国企業に買収して欲しいという米国の空気感を表しているのではないでしょうか。